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奨学生の声

瀬戸 紫英さん(35期・大学生)

(35期・大学生)

国際基督教大学教養学部 アーツ・サイエンス学科3年(2025年4月時点)

奨学会を知った経緯

私は山田長満奨学会について、公式ウェブサイトを通じて初めて知りました。財団の「世界の平和、経済の発展、そして人々の幸福に貢献することを目的とする」という理念の中のとりわけ「人々の幸福に貢献する」という部分が、私自身が長年抱いてきた、世代やそれぞれのもつ背景を超えて人々に喜びを届けるという人生の目標と深く共鳴し、強烈なシンパシーを感じた、山田長満奨学会の奨学生に応募したことを今でも鮮明に覚えております。

奨学会に参加して

山田長満奨学金のコミュニティの本質を一言で表すとすれば、私は「One Team」という言葉が最もふさわしいと思います。初めての交流会に参加した際に、奨学生一人ひとりが単なる奨学金の受給者としてではなく、共通の使命を担うMVPとして等しく尊重され、真摯に迎え入れられていることを、強く実感いたしました。奨学生として選出されること自体が大変光栄なことであることは言うまでもありませんが、毎月の交流の場を通じて、個人の成長と集団としての歩みが響き合う、素晴らしい時間を過ごさせていただきました。
各回の交流会は、ただ互いに情報を共有する場にとどまらず、自らが発信したビジョンを、他者と結びつけ、共に磨き合う場として機能しています。その場に集う全員の考えや情熱、そして将来のビジョンに馳せる想いが自然と重なり合い、また新たな気づきや変化が生まれていく、いわば感情の交差点のような空間でした。奨学生同士がお互いに刺激を与えあい、他者の視点を取り入れ、深く思索し、次の月にはまた一歩成長した自分としてその場に集う——このような継続的な変化のプロセスは、人と人とのつながりのなかで生まれる感情の動きがいかに豊かなものであるかを実感させてくれました。
多様な背景と志を持つ若者たちを一つにまとめ、力を引き出してくださる山田理事長、そして、常に温かく励ましの言葉をかけてくださる君江様の存在は、私たちに希望と活力を与えてくださいました。資金的な援助以上に、奨学生ひとりひとりの歩みを丁寧に支え見守り、私たちが共に前進する力を養う場を提供し、その場に一緒にいてくださったことに心から深く感謝しています。

現在は

私は将来的に、国際的なエンターテインメント企業のリーダーとして、人々の心に寄り添うエンターテインメントを主導したいと考えています。エンターテインメントを通じて人々に深い感情体験を届けるためには、まず「人はなぜ、どのように感動するのか」を理論的に理解する必要があると考え、現在は「情動論(Affect Theory)」(Massumi, 1995) を基盤とした研究に取り組んでいます。情動とは、感情が言語化・認識される以前に身体を通して生起する経験の強度を指し、意識を超えたレベルで人間の行動や判断に影響を与えるものです。この理論的枠組みを土台に、私は現在、実験的なケーススタディを展開しており、映像メディアを通じて情動がどのように喚起され、受け手に伝達されるのかを探究しています。昨年の秋に、すでに私自身が脚本・監督を務め短編映像作品『灯火のなかで(Candlelight)』を制作し終えております。この作品は、歴史的映画理論(Balázs, 1930)を参考にし、戦略的な映像構成や音響的な感覚体験を重視して制作したものであり、視聴覚メディアにおけるアフェクトの可能性を探る試みでもあります。
本研究では、アフェクトが映像体験においてどのように働くのかを、観客の感情的反応を測定する実験的な手法によって明らかにしていきます。被検者の反応は、PANAS-X尺度(Positive and Negative Affect Schedule)に基づいて設計された質問紙によって収集し、Massumi(1995)の理論に基づいて映像および音響体験に対する感情的関与を体系的に分析していきます。さらに、得られた結果はラカンの精神分析理論(Lacan, 1966)に基づいて解釈します。欲望や同一化といった無意識の構造、「視線」、主体形成のプロセスなどに着目し、象徴界・想像界・現実界という三つの次元を通してアフェクトの働きを多層的に読み解いていきます。加えて、ピエール・ブルデューによるハビトゥス理論(Bourdieu, 1972)を併用することで、情動的経験がいかに社会的文脈に埋め込まれ、身体化された実践として形成されるのかについても考察していきます。
本研究は、歴史的理論枠組みとオリジナルな映像制作、そして実証的な観客調査を統合することにより、アフェクトが視聴覚メディアを通してどのように伝達され、経験されているのかを明らかにすることを目指しています。そして最終的には、アフェクトがどのように身体、スクリーン、他者との関係性を横断して動き、私たちの「感じ方」だけでなく「在り方」そのものに影響を与えているのかについて、深い理解を促すことを目的としています。
私は本研究を、自分の夢の実現に積極的に活かしたいと考えています。物語・空間設計・パフォーマンスを通して生まれる情動的なインパクトには、人を癒し、希望を与え、他者との意味あるつながりを育む力があると私は信じています。感情設計(emotional design)をエンターテインメントの中心に据えることで、世界中の人々の情動的な幸福や心理的健康に貢献していくことを目指しています。

奨学会に参加したことを振り返って

35期の皆様と共に過ごした時間は、私の人生にとってかけがえのない経験となりました。本奨学会の毎月の交流会への参加は、常に私を励まし、力づけてくれる場であり、アカデミックな面でもパーソナルな面でも大きな成長の機会となりました。本奨学会で最も印象的だったのは、同じコホートに所属する奨学生同士の深いつながりです。他の財団と異なり、本奨学会は学業上の成果の追求にとどまらず、真のコミュニティ意識を育む場であると強く感じました。参加者同士は、学問的なライバルではなく、共通の知的・社会的目標に向かって協働する仲間として関係を築いていくことができました。まさに、山田長満奨学会には「Group Dynamics(集団力学)」の力学が存在していました。ひとりひとりの個性や専門性が尊重されるなかで、相互の影響がポジティブに“アフェクト”し合い、全体としてのモチベーションが自然と高まっていくことを実感しました。互いに励まし合い、何気ない言葉や行動が誰かの背中を押す——そのような無意識的な連携が、私たちの間に信頼と連帯感を生み出しました。
また、学際的な対話を活性化することで、異なる専門分野間に意外な接点を見つけ、それを前向きに受け入れる姿勢も、このグループの力学の中で育まれました。このような学際的協働は、個々の学びを深めるだけでなく、コホート全体としての一体感を育む原動力となっており、「人と共に成長するとはどういうことか」その意味を実体験した瞬間が、数多くありました。
本奨学会に参加させていただいたことで、集団の中で交差する情動の流れが、他者とのつながりを深め、学問的な成長だけでなく、内面的な変容や卓越性を育む土壌となることを学びました。
第12回目の最終会合は、まさに象徴的なひとときでした。「One Team」として、同期の奨学生と共にたどり着いたゴール。それは、学びの道のりが決して孤独なものではなく、共鳴と連帯によって築かれていくものであることを再認識する機会となりました。

35期の皆様、才能と情熱にあふれた皆様と、同期としてご一緒できたことを、心から幸運に思います。これから皆さんが描いていく未来が本当に楽しみです。共に限りない成長の道を歩んでいきましょう。

これから奨学会への応募を考えている方へ

異なる専門領域やバックグラウンドを持つ仲間たちに囲まれ、刺激を与えあうことができた山田長満奨学会で過ごした時間は、私にとって知的好奇心を十分に満たしてくれる貴重な場所のひとつでした。そしてそれ以上に、本奨学会は、単なる経済的・学術的支援の枠にとどまらず、「生きた共同体」としての価値を持つ場所でもあります。自分自身に、「この共同体の中で、自分はどのような存在なのか」「どのように貢献できるのか」と、自らの役割や立ち位置を常に問い直すことで、自己を深く掘り下げ、協働的な空間におけるアイデンティティと帰属意識を問い直す機会を得ることができます。この奨学会は、より優れた専門家や研究者を育てるための支援に留まらず、社会と深く関わり、思いやりと内省を備えた人間へと成長するための土壌も提供してくれています。

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